2012年 05月 02日
読書:TOKYO BLACKOUT / 福田和代 /東京創元社 (2008) 「東都電力」の電力供給網の破壊するテロ活動を扱った小説である。供給力の不足に対応して「輪番停電」が計画されるが実行できず、周波数の乱れで全域が停電してしまうというもの。地震の前に書かれ、電力の需給調節の手順、輪番停電など、ほとんど知られていなかったことを取り入れたのは評価できる。 しかし、今となると甘さが目立つのはやむを得ないか?輪番停電はわずか一夜にして計画が立案され特に混乱も起きないようだし、なぜか対象は東京23区のみである。(「東都電力」の電力量は東京電力全体と同じレベルの数値を使っているから、区域が23区のみということもなかろう。) それに輪番停電の影響も、想像が追い付いていない。鉄道は停電区域のみ停止すればいいとして、他の区域は平常通り動いていることになっているし、JRは自家発電で全域平常通り運行するとしている。 明らかに数値がおかしい記述もある。 「エアコン一台で六畳間を冷房すると、およそ七百キロワット時。・・中略・・東京では、気温が一度上がると、全体で百六十万キロワットほど電力需要が上がるといわれている。」。七百キロワット時は部屋ひとつではありえないし、ワット時というのもおかしい。七百ワットの誤りではないだろうか? ところで、この小説で本当に変なのは、犯人がこのテロによって果たそうとしたということの実現可能性など、ストーリー展開上のご都合主義であるような気がするのですが、今回は触れないでおきます。 2011年 12月 28日
読書:「Amazonランキングの謎を解く-確率的な順位付けが教える売上の構造-」 / 服部哲弥 / DOJIN選書 (2011) Amazonで本を検索表示すると、その中に「ランキング」が表示され、数十万台の数字が表示されることもある。 例: 「Amazon ベストセラー商品ランキング: 本 - 516,248位」 この本では、このランキングの数字がどのように付与されているのか、長期間の観測データからモデル化し分析を行っている。(分析に際しAmazonには何の問い合わせなども行っていないし、聞いても教えてもらえないだろう。) 推定されたモデルでは最近の短い期間に売れた本を前へ出すというもので、売れなかった本は後ろに押し下げられる。結果的にあまり売れない多くの本は、最後に売れた時間の順に並び、1件でも売れると一気にトップ近くに出てまた下がっていくことになる。良く売れる本については期間内の売れた件数が関係するかもしれないが、多くの本は期間内に1件売れたかどうかしか関係しない。 このため長期間の通算売り上げ数による普通のベストセラーランキングとは異なる結果になる。 著者の分析では、最後に売れてからの経過日数は次のように推定される。 順位 経過時間 3万位 6時間 10万位 36時間 50万位 26日 70万位 72日 良く売れた本でも2日程売れなければ10万位以下に落ちてしまうのだ。 逆に10位以内に定着している本では秒単位で売れているようだ。 また、ランキング分析から上位の本の売れ方と下位の本の売れ方が推定され、その分析から売り上げの大部分は上位の本からなっており、良く言われる下位の本による「ロングテール」の効果は実際には無いのではないかと判断している。 WEB2.0とかで注目されたロングテールビジネスが、アマゾンでは成立していないだろうという解析結果には驚かされる。 2011年 12月 10日
読書:「安全な食べもの」ってなんだろう? 畝山智香子 日本評論社(2011) 放射能汚染については、さまざまな危険性が報道され、どこまでなら絶対安全とういことが言えないこともあり、全くゼロでないといけないという風潮がまかりとおり、被災地の農産物などに多大な影響が出ている。 しかし、今の世の中リスクゼロということはありえない、ということは忘れられている。というか、放射線のリスクは他のリスクと比べてどうなのかということがわからないまま、過大に恐れ、風評被害を招いているようだ。 リスクを比較するには、その大きさを共通の物差しで測らなければいけない。 この本はその試みを行っている。 ミネラルウォ-タには、自然のままということで水道水の数倍の砒素の含有が許容されている。一時水道水の放射性物質が基準の100ベクレル/lを超えたということでミネラルウォータを配ったのだが、このミネラルウォータに許容限度(0.05mg/l)いっぱいの砒素が含まれていると、驚くべきことにその砒素によるリスクは問題の水道水の放射線によるリスクの10万倍以上になるのだそうだ。 リスクは無いほうがいいのだが、その程度を把握しておかないと無駄に恐れることになる。問題の水道水を1日飲んだといって、医者にかけこんだ人もいるようだが、「直ちに影響は無い」と言われるのはそのとおりだろう。 放射線被ばくの許容限度として20mSVとか言っていたが、どうやら1mSVまで厳しくなっていくようだ。他のリスクをこのmSVと対応付けると驚くべき値になる。 ・毎日ヒジキ1gを食べると砒素のリスクが27mSv相当 ・毎食コメのご飯を食べると砒素のリスクが20mSv相当 著者は。仮想の計算なので現実にがんになるなどの確率では無いと何度も念を押しているが、似た程度のリスクは珍しくないのだということだろう。 (12.22 追記) 内閣府の有識者会議は、12月15日、年間20mSvの放射線量を避難区域の設定基準としたことの妥当性を認める報告書をまとめたと報道された。 その中で、他のリスクのSVでの評価が行われている。 「喫煙は年間1千~2千mSv、肥満は200~500mSv、野菜不足や受動喫煙は100~200mSvのリスクと同等」だそうである。 2011年 11月 01日
「二酸化炭素温暖化説の崩壊」広瀬隆、集英社新書(2010) 普通の?温暖化説批判本かとは少し違う本である。著者は一貫した原発反対論者、原発反対が目的でこの本を書いたのである。発行は2010年で、福島の前である。 まず、著者はごく最近の地球の温度変化グラフを示し、温暖化は起きていないと主張する。グラフ化する期間のとりかたなどで、温暖化があるようにもないようにも見せられるという例としてではなく、温暖化がない証拠だという。 しかし、どうも著者は本気ではないのかもしれない。あとの方では気象の変動などを認めたうえで、ヒートアイランド現象による地域的な高温現象だと主張する。 更に後半では、ヒートアイランド現象ではなく、原発の温排水の影響で温度上昇が起きていると主張し始める。なるほど、温暖化そのもは否定しないようだ。 温排水など発電所での発熱の影響とすれば火力発電所でも同じなのだが、そのことは触れないで原発批判だけを行う。 原子力発電がCO2発生が少なく、温暖化防止に有効とされていたことに対し、ともかく原発反対のために温暖化問題そのものを批判しようとした本である。 本当は温暖化問題には興味がなかったのでは?と思わせる本である。 2011年 10月 13日
読書:「福島原発の真実」 佐藤栄佐久 平凡社新書(2011) 原発事故のあと、「だから言っただろ」みたいに、危険性を述べる本がたくさん出ているが、この本は少々違う。 収賄容疑で逮捕起訴され争っている前福島県知事の書いた本である。この知事は、国の原発政策の強引な進め方に反発し、東京電力の体質にも不信を持ち、福島原発でのプルサーマル実施を認めないなど、抵抗していたという。 国、原子力委員会、保安院など官僚集団が、原子力ムラで決めた国の政策をアメとムチで強引に地元自治体に協力させようとする。 立地する市町村は、原発マネーの中毒に陥り、特に固定資産税の目減りに窮して新たな原発増設を求める程の状態になっている。県も交付金でうるおっているので、原発そのものを否定するわけではない。ただ、さまざまな不信の積み重ねがあり、安全確保とプロセスの正常化を求めて抵抗するという立場だったようだ。 その中では、保安院の経済産業省からの分離などを求めるなどもしていたのだが、まったく相手にされなかった。それどころか原発政策に非協力で電力危機を起こしかねない問題知事とみなされていたという。 そして、収賄容疑での逮捕・辞職となり、後任の現知事はプルサーマルを認めた。収賄のストーリーを作ったのは、中央マスコミと東京地検特捜部、あの村木事件の前田検事も加わっていたという。事件の詳細は別の「知事抹殺」という本に書かれているようでそちらは未読であるが、収賄全面否認で争っているのに、執行猶予つき課徴金なしの有罪で、実質処罰なしという高裁判決だそうである。 しかし、こうした福島での議論が、地元ではそれなりに知られていたようだが、私も含め、東京など電力消費地ではほとんど気にもとめられていなかったことに思いあたる。 争いの当事者の著作であるので、少しは割り引いて読むべきかもしれないが、福島原発問題の理解には役立つ本である。 2010年 10月 09日
読書:「戦場の精神史 武士道という幻影」/ 佐伯真一/NHKブックス/2004 日本の武士の戦いについては、正々堂々と一騎打ちといったイメージがあるが、この本を読むと、そうした概念は全く現実とは違いそうだということがわかる。 著者は膨大な史料から、そうした戦いの状況や当時の評価を取り出し、分析する。 冒頭の事例では、平家物語(延慶本)の一の谷の戦いでの事例が紹介される。 平家の侍大将越中前司盛俊は、源氏の武将猪俣則綱を組み伏せ、首をとろうとする。 則綱はそこで、盛俊に取引をもちかける。すでに源氏が勝勢で、たとえ自分を討ったとしても無意味だ、助命してくれれば、平家の盛俊とその一族を保護してあげようと八幡大菩薩に誓った。盛俊もそれを受け入れ停戦して一緒にいるところに源氏の武将がかけつけてくると、則綱は突然盛俊に襲い掛かり首を取り、手柄名乗りを挙げる。 ところが、話はこれで終わらない。かけつけた源氏の武将は、誰もいないのをいいことに、その首を奪い取り自分の手柄にしてしまう。その後さらに則綱がこれを知略により取り戻すということで終わるのだが、この一連の経緯が普通のエピソードとして書かれているという。 敵に対して誓約を破るなどは当然で、仲間も信用ならないのである。 野獣や蛮族との戦いでは、約束などといった概念は成り立たないので、偽計や罠は当然である。外敵についてもこれに準じるようだ。その後、味方内ではウソが多いと困るのでウソを禁じるようになるが、敵に対してはフェアプレイなど不要とされていたようだ。 ところが、現代の「武士道」の概念はこれとだいぶ異なる。これは明治になって、武士がなくなってから、日本の精神を求める過程で構成されていったもので、「葉隠」もその時代に重視されるようになったものだという。 新渡戸稲造はアメリカで「BUSHIDO」という本を出して日本精神を紹介し、これが逆輸入もされたのだが、実は新渡戸は、日本の武士精神の歴史はほとんど知らなかった(武士道という言葉も知らなかったと自認している)というのだから驚く。 あまり武士道のことなど調べたこともなく、なんとなく既存概念で認識していたのだが、実態はかなり怪しそうであることはわかった。目からウロコが1枚だけ取れたような気がします。 2010年 06月 05日
「究極の田んぼ 耕さず、肥料も農薬も撒かない究極の農業」岩澤信夫、日本経済新聞社(2010) 不耕起農法というのがあるようで、堅い地面にそのまま種をまくと、頑健な作物が育つというものだ。怪しい話だと思っていたが、最近、その水田版のような本が出て、これが新聞の書評などで好意的に紹介されている。 朝日新聞 毎日新聞 読んで見ると、水田を切り株なども残したまま冬季に湛水しておき、イトミミズを発生させることで、その排泄物で柔らかくなるという。なるほどそういうことなら、ありうるかもしれない。また、この「耕さず、肥料も農薬も撒かない究極の農業」では強い苗を植え、前回の大冷害でも他と比べて優秀な作柄をあげたといい、さまざまな写真でそれを示している。 どうも、この方法は、著者の辛抱強い研究を踏まえたもので、決して思いつきやトンデモではないような気がする。それが書評などで取り上げられる理由のひとつなのだろう。 しかし、どうも納得できないのは、元素の収支である。 農地では作物が作られる。水田ではコメとして収穫され、系外に持ち出される。 光合成で取り込まれる炭素・水素などは別としても、必須の肥料成分であるN,P,Kなどがコメの成分として取り出され減少するはずである。特にNはたんぱく質の重要な構成要素である。 したがって、N,P,Kなどを補給しなければ土地は長い間にどんどん痩せていき、収量は減少するはずである。江戸時代でもそのことは知られており、農民は下肥や魚肥などで養分を補給していた。 著者はイトミミズの排泄物が養分になるとしているが、イトミミズだろうが何だろうがN,P,Kなどの元素を創り出すことはできない。イトミミズの排泄物にN,P,Kが含まれるなら、それはどこから来たのだろうか?ともかく、どこからか補給されないことには、いつか生産は減少するはずである。著者も、窒素分のことについて触れてはいるのに、それが持ち出されることには触れていない。 私には次のような可能性が思いつく。 ・この農法以前に投入されていた肥料が残っている。 ・著者にとって「肥料」という定義にあたらない何かを補給している。たとえば、よその田でできた米ぬかを投入したりしている。 ・窒素固定バクテリアがいる?でも、P、Kはどうする? ・よその水田で使われている肥料が水を介して入り込んでいる。 私は著者が何かに目をつぶっているのではないかという気がしてならない。 2009年 10月 08日
「一般の人間も、他人の文章、著作から一部を引用するとき、公表するのであれば、筆者、著者から文書による許可を受けなくてはならない、と心得ておくのが、作法である。」(外山滋比古、「日本語の作法」より許可無く引用) 外山滋比古の著作「思考の整理学」が最近人気復活らしい。それとは別の本だが、上記の「日本語の作法」なる本を見かけてたので一読した。あまり新味はないが、おおむねもっともな事が書いてある。ただ、論理の流れがすっきりしておらず、中見出し?のつけかたに違和感を覚える部分もあった。 最後の方の章で、他人の著作をあたかも自分の成果のように扱うことを批判し、それはもっともなのだが、最後のまとめが冒頭のような文で困惑させられた。 法的には正当な引用は許可無くできるし、著者も拒否できない。そうでなくては、他人の著作の紹介、特に批判は困難になるだろう。 法律ではなく「作法」のことを言っているのだろうとしても、私は上記の文を外山氏の許可なく引用して良くないことをしているのだろうか? 2009年 06月 14日
読書:生物と無生物のあいだ / 福岡伸一 / 講談社現代新書(2007) 以前、筆者の「もう牛を食べても安全か」を紹介した。その中で筆者はシェーンハイマーの「動的平衡」論を重要な理論としてとりあげていた。今回も筆者は生物と無生物を分けるものとして、この動的平衡にもとづく時間の流れの作用を提示する。 ただ、今回は生物化学の中身をわかりやすく紹介するだけでなく、筆者がアメリカで過ごした研究生活の経過をたどることで現代の生物化学のダイナミズムを感じさせてくれる。良い本である。 ところでいくつか気になった点をメモしておく。 前回の「もう牛を食べても安全か」では、プリオンが狂牛病の原因であることには賛同していないようだったのだが、今回はそれを肯定して話をすすめているようだ。何か新しい事実でもあったのだろうか。 また、ブラウン運動に関する解説で、次のように書いてある。 「小さくて軽い粒子、たとえば水面に浮かぶ花粉や空気中に浮かぶ霧の動きなら顕微鏡を使って追うことができる。すると粒子は絶え間なく非常に不規則な動きをしていることがわかる」と書いている。(P138) かつて、日本の理科教育にあった誤解、「ブラウン運動で花粉が動く」を今頃繰り返しているのは少々驚きである。花粉のような大きなものは動かないのであるが、物理学者は花粉の大きさを知らないのでいつまでも間違いを引き写していると言われたのだが、生物化学者も同じらしい。 ブラウン運動にまつわる誤解/Wikipedia 前回記事、「もう牛を食べても安全か」 2008年 11月 08日
細胞の意思-〈自発性の源〉を見つめる- / 団まりな / 日本放送出版協会(2008) タイトルからはトンデモの香りがしたが、そういうわけでもない。 単純な生物の動きについては、何かの意思というのではなく、単純な反射的事象の組み合わせとして考えるのが「科学的」立場であるとされる。これを意思や目的で行動すると解釈するのは通俗的であり、正しくないとされる。 しかし、著者は生物細胞の研究を通し、細胞に意思や目的があって行動すると考える。受精卵から胚ができるとき、将来生殖巣となる部分のアメーバ状の細胞が数十個生まれるが、これらの細胞は互いに連携しながら最終目的地に向かって移動を開始する。その過程を追うと、とても単純な生物化学的反射では理解できない。 アメーバやゾウリムシが、何かを「食べる」のは、栄養補給という目的に沿った、意思のある活動と言われてもそんな気がする。多細胞生物の個々の細胞に目的や意思があるかというと、変な気持ちがしてくるが、確かに単純な生物化学で解釈することだけが「科学的」態度とは言えないようだ。 ちょうどノーベル化学賞の対象となったオワンクラゲのGFPを利用した研究がまさに生物発生時の細胞移動の追跡に使われている。本書はノーベル化学賞発表以前の発行だが、緑に光る細胞群の写真が載っています。 < 前のページ次のページ >
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